2017年9月16日土曜日

サンクチュアリシティの存在意義

昨日はカリフォルニア州議会で割と大きな動きがありました。州全体で「警察は連邦政府からの移民ステータス照会や引き渡しを拒否する」というものです。[Source 1][Source 2] あとは州知事が法案に署名すれば成立します。

リベラルを売りにする州なので、不法移民に厳しい(とされる)トランプ政権への対抗心なのでしょうけど、この法案が成立すると再び政権対カリフォルニア州の争いが激化すると思われます。

その理由は8月15日未明にサンフランシスコミッション地区で起きた殺人事件にあります。
殺されたAbel Esquivelさん 享年23 ソース http://www.latimes.com/local/lanow/la-me-deportation-murder-20170915-story.html
中央アメリカリソースセンターでボランティアをしていたAbel Esquivelさん(23歳)は、8月15日午前2時ごろ何者かに発砲を受け、収容先の病院で死亡。そして9月12日にサンフランシスコ市警は容疑者3人を逮捕します。

  • Garcia Pineda容疑者(18歳)
  • Jesus Perez-Araujo容疑者(24歳)
  • Daniel Cruz容疑者(18歳)
この事件は、「非番の警官が停めていた車から盗まれた銃が犯行に使われた」という点が注目されていますが、もう一つ特筆したいことがあります。それは、Pineda容疑者とAraujo容疑者の二名は不法移民であり、移民関税執行局(ICE)から引き渡し要求がでていた、という点です。

Pineda容疑者は昨年12月にICEに収監され、国外退去が決まった状態で4月に釈放。国外退去までは位置追跡デバイスを装着され、定期的に警察に出頭する義務がありましたが、8月以降は出頭せず。さらに、9月3日に暴行で保安官に逮捕された際に、保安官の手により位置追跡デバイスは外されてしまったそうです。またICEからはPineda容疑者を釈放しないように要請があったものの、保安官側はSanctuary Cityの原則で無視し、Pineda容疑者は釈放。

Perez-Araujo容疑者もICEからサンフランシスコ市警に対し引き渡し要求がでていましたが、市警側は無視。5月に大麻所持および凶器所持で逮捕されたときもそのまま釈放されています。

こういう悪人は不法移民の中でも極一部でしょう。

でも、合法的な移民が暴行や凶器所持で捕まればそれなりの制裁を受けます。企業からの派遣なら会社はクビでしょうし、留学なら退学放校。そして本国への送還もあるでしょう。

なのに不法移民だとサンクチュアリで釈放されてしまうわけです。なんか変ですよね。

こんな事件が起きて、国外追放が決まっていた容疑者が逮捕された直後に「州ごとサンクチュアリにしてしまおう」などという法案を可決したカリフォルニア州はトランプ政権に喧嘩売ってると言って良いでしょう。

来年度予算を議論するタイミングでバカなことをしたもんだ、と思います。


2017年9月7日木曜日

サンフランシスコ~シリコンバレーベイエリアから日本企業が学ぶべきたった一つの真実

すいません。タイトルは意識高い人をひっかけるための釣りです。中身はタダの与太話ですから安心してください。

サンフランシスコ~シリコンバレーベイエリアへの日本企業進出に加速がついてから久しいですが、自分の周りを観察する限りではその勢いはまだまだ続きそうです。そして実際にオフィスを探したり、あるいは駐在社員の住居を決めたりする過程で冷たい現実に突き当たる例も割とよく見かけます。

それは日本が失われた20年で忘れていた「インフレ」という現象です。

まずはこのチャートを見てください。ソースはhttps://medium.com/@mccannatron/1979-to-2015-average-rent-in-san-francisco-33aaea22de0eです。
1979年から2015年までのサンフランシスコにおける2Bedアパートの家賃です。インフレ調整済ですが、2010年から2015年の間に実に80%上昇しています。もちろんこれはドルベースでみているわけですが、円建てで見るともっともっとすごいことになります。ざっと2倍かそれ以上になってる計算です。

「それはサンフランシスコという特殊な地域だけだろう」と思われるかもしれませんが、事態はそれほど甘くありません。次に範囲を広げて家賃を見てみましょう。これは私が6月に作成したものです。家賃のソースはTruliaで平均値ではなく中間値。家賃だけで見るのは不公平なので「オフィスをパロアルトに借りた場合の通勤費用込み」で比較できるようにしました。
通勤費用はIRS(日本の国税庁に相当)が認めている通勤時のガソリン控除額を元に算出しています。1マイルあたり$0.54です。

実は家賃が最も高いのはパロアルトで、中間値が$5800。サウスベイやイーストベイに行けば多少家賃は下がりますが、通勤費用がかさんだり、渋滞によるQOL低下などが待っています。目に見えてコストを下げられるのは地の果てTracyかその向こう側になりますが、毎日5時間程度渋滞路の中で人生を過ごすことになります。

もちろん、頑張って探せば家賃の低い物件もあるでしょう。ただしそれらは申し込みが殺到しますから出向社員の引っ越しタイミングでどんぴしゃり借りられる保証はないです。つまり、家賃と通勤費用だけで毎月$4000~$5000は消えていく運命にあると思ったほうがいいです。

さらに...

単身赴任ではなく、家族帯同で出向したり、あるいは現地でお子さんが生まれたりするケースも考慮する必要があります。日本でいう保育園や幼稚園にお子さんを預ける場合は「ミルク飲ませて昼寝させる程度のサービス」でも月々$2500程度を覚悟しないといけません。

小中に関しては公立なら基本的に無料ですが、日本の補習校やら習い事に通わせるのであればそれなりに費用が発生します。ケーブルテレビやインターネットも日本に比べるとかなり高いですし、携帯も家族分持たせればそれなりの値段になります。

等などまとめると、「家族二人・車は1台」の状態で月額$8650程度が必要最小限のコストではないかと。もちろん、食っていかないと人間死にますから食費がかかってきますし、郊外に住むのなら二台めの車も用意しないといけないでしょう。


こうして考えると年収10万ドルでは全く足らず、15万ドルでもカツカツ。おそらく米国駐在で資産を切り崩していくことになります。社員を大事にしたいのなら税引き後に家賃の3倍くらい残る給料を払うべきでしょう。

「それじゃ高すぎる」と思う経営者もいるかもしれませんが、この「なんでもかんでも高い」のはITとその活用イノベーションが経済をけん引してきた結果です。そのITイノベーションを学びにシリコンバレーに人を送るのであれば「高い」などと文句を垂れている場合ではありません。むしろ日本でもこのようなインフレを起こすくらいの勢いでIT人材育成と技術移転を頑張ってほしいと思う次第です。

おまいらの大好きなオバマが残した違憲状態をおまいらの大嫌いなトランプが解消しようとしておまいらがブチ切れてる滑稽さ

トランプ大統領によるオバマケア廃止は「代替案が決まらない」という理由で難航していますが、一方でDACA(Deferred Action for Childhood Arrivals)は「即日受付停止。現行の受益者は一定期間の延長を認める。半年以内に議会は代替案を定めること」と宣言し、事実上の廃止が決まっています。

これに対し米国主要メディアは「非人道的」「トランプ許すまじ」という論調で批判し、呼応する形で市民団体も騒いでいます。共和党の一部ですら「DACA廃止を見直すよう」トランプ大統領に進言したくらいです。

でも現実のところトランプ大統領はそんなに悪いことをしているのでしょうか?

National Review誌の上級編集委員Ramesh Ponnuru氏が割と鋭い指摘を公開していました。To End DACA, Follow the Constitutionという題名の記事です。「DACAを終焉させるために憲法を順守せよ」とでも訳せましょうか。

Ponnuru氏の指摘は明快で、オバマ大統領が発令したDACAは「大統領の権限を逸脱した違憲な措置」と断じています。もちろんオバマ大統領は「DACAを議会で承認してね」と議会に法案作成を依頼したわけですが、共和党の反対により法案は通りませんでした。それを跳ねのけて大統領令としてDACAが始まった経緯があります。共和党が支配している州はDACAを違憲として裁判を起こし、判断は連邦最高裁まで持ち越されて時間切れという状態です。

トランプが本当に無慈悲な独裁者ならオバマ同様の大統領権限で即日DACAを廃止し、米国滞在権利を失った子供たちを即日「母国」に送り返すこともできたはずです。だが実際にはそんなことはせず、一定の猶予期間を設けた上で「議会に代替案を作成するよう」指示を出したわけです。彼のやったことはオバマ大統領が残した違憲状態の解消であり、あとは民主主義に委ねられたわけであります。

と、ここまで書いたところで良いTweetが流れてきたので貼っておきます。

DACA廃止に反対するデモ行進をしてる人たちは天に向かって唾を吐いてることを自覚するべきでしょう。

2017年9月1日金曜日

トランプ大統領に追い風か

早いもので8月も終わり。トランプ大統領が就任してから7カ月が過ぎたということになります。一方で、2018年の中間選挙まであと1年2カ月しかない、ということでもあります。中間選挙では下院435議席すべてと、上院100議席のうちの33議席が有権者の信任を仰ぐことになります。

そして、この中間選挙に向けた動きはすでに始まっており、トランプ大統領に追い風となるのでは、という与太話を書いてみたいと思います。

ダイアンファインシュタイン上院議員による「トランプ擁護」


一つ目は、サンフランシスコに地盤を持つ民主党重鎮、ダイアンファインシュタイン上院議員の動きです。(彼女はかつてサンフランシスコ市長を務めたこともあるそうです) 29日に地元サンフランシスコで開かれた公開インタビューで「トランプ大統領の弾劾はあるのか?」と聞かれたファインシュタイン上院議員は、弾劾の可能性については一切話さず「トランプ大統領は、しっかり学べばという条件が付くが、良い大統領になるのではないか。そして4年の任期を務めるのではないか」と答えています。
ダイアンファインシュタイン上院議員(民主)

  • 民主党支持者が多く
  • とてもリベラルで
  • 反トランプが多数派のサンフランシスコで
  • 民主党重鎮の
  • サンフランシスコに地盤をもつファインシュタイン上院議員が
トランプを擁護するというのはかなり異例なことではないでしょうか。つい2日前までサンフランシスコおよび対岸のバークレーでリベラルによる大規模なデモがあったばかりなのに、です。

Wikipediaによれば同上院議員は2012年選挙で67%の得票率という米国上院議員選挙での記録を持っているそうです。そんな彼女の支持率はUC Berkeleyの2017年7月調査によれば50%以下に低下しており、特に無党派層からの反発が強いとのことです。

今回のトランプ擁護ともとれる発言は都市部のリベラル層からの反発を招くのは必至でしょうが、それでも敢えて発言した裏には都市部のリベラルよりも、保守寄りの無党派層に頼ったほうがマシ、という判断があると思われます。


ナンシーペローシ下院議員による「左派も悪い」発言

ファインシュタイン上院議員がトランプ擁護発言をした29日、同じくサンフランシスコに地盤をもつ民主党重鎮のナンシーペローシ下院議員もメディアを驚かせる発表を行いました。週末にバークレーで起きたAntifaによる暴動をかなり強い口調で非難したのです。ワシントンポスト紙によれば、これは「民主党リーダーによるかつてないレベルの左派批判」とのことであり、実質的にはシャーロッツビルで起きたAlt-Rightによるテロ殺人の後にトランプ大統領がコメントした「どちらも悪い」発言の追認とも取れましょう。
ナンシーペローシ下院議員(民主)

当然民主党内やリベラル層からは反感を買っており、すでに来年の中間選挙で同じ民主党から立候補予定のStephen Jaffe氏は強い口調でペローシ議員を非難しております。

「ナンシーペローシはAntifaの非難はできるけどトランプ大統領の弾劾はできねーじゃねーか」みたいな感じで名指しでペローシ議員を批判してますね。ペローシ氏に「右寄り」というレッテルを貼って来年の中間選挙までに人気を下げようという意図が見え見えです。

こうしたペローシ下しの声がかかるのが確実だったのに、リベラル中のリベラルたるナンシーペローシ議員が敢えてAntifaを名指し批判した(=トランプ大統領の「どっちも悪い」発言追認)のは、やはり中間選挙へ向けてのなんらかの計算があると思って良いでしょう。


超党派6州知事連合による「トランプケア代案」の提案

まだまだあります。難航している「トランプケア」の代案を6州の知事が合同で提案した、という話です。それも共和党・民主党の協業による提案です。原案は読んでいないので記事を通した推定しか書けませんが

  • 医療保険加入義務付けは存続
  • ただしオバマケアのままでは保険制度が破たんするのも確実
  • 重要なのは若くて健康な加入者を増やすこと
あたりが骨子となっているようです。記事にある
 a temporary stability fund that states could tap to reduce premiums and limit losses

「掛け金を下げ、赤字を抑える一時的なファンド」という表現が多くを語っています。今のままだと加入者の掛け金上昇と保険制度の赤字増加が継続する(すなわち破たんする)という認識を共和党だけでなく民主党側も共有したというのはとても大きなポイントだと思うのです。トランプ大統領が選挙戦の頃から叫んでいた「オバマケアは終わっている」という主張が正しかった、ということを一部ではあるけれど、民主党側も認めているわけですから。
代案提唱者の一人、John Kasichオハイオ州知事(共和)

代案提唱者の一人、John Hickenlooperコロラド州知事(民主)

反トランプ路線では中間選挙に勝てない?

The Hillは、民主党が政治資金集めに苦戦していることを伝えています。今年前半の寄付金は共和党の7500万ドルに対し、民主党は半分程度の3800万ドル。富裕層はもともと共和党寄りですが、大きく差をつけたのは小口の寄付とのこと。一口$200以下の小口寄付で

  • 共和党は3300万ドル
  • 民主党は2200万ドル

この募金状況がただちに両党の支持率につながるわけではないですが、小口寄付の不振は民主党議員には相当効いているのではないでしょうか。いくらCNNがトランプ支持率低下を報道しようが、世のインテリ層がトランプをバカにしようが、現実は「トランプ路線は支持されている」「反トランプ路線は支持されてない」わけで、それを肌で感じとった民主党議員たちが現実路線を採用するのはごく自然な流れと言えましょう。