Money Magic(お金の手品)を適当に抜粋要約。
金融政策が行き詰まるのは、その政策がタダ(Free Lunch)だと思われているから。だが金利とは、「そのお金を使う人に貸し出される預金のお値段」であり、Fedがその価格(金利)を下げるということは預金者から搾取し、お金を使う人に補填していることに他ならない。国全体で考えれば、これで景気を刺激し続けることはできない。なぜなら、「お金を使う人が得る利益(低金利)」は「預金者の損失」で補われているからであり、貸出金利と預金金利が適切に設定されていれば預金者の損失のほうが大きくなるのが普通だからだ。
企業は(各種権利で守られた)労働者の給与・福利厚生が高すぎるので、投資に消極的になっているという意見がある。企業が、雇用を生むような投資に積極的になれば雇用は増える。だから金利を下げてあげることで雇用が増えるはずだ、という考えになるのだが、そもそも雇用の硬直化が企業の投資減退に繋がっているという強い証拠はない。いろんな企業が(日本でいう)サービス残業的行為を強要したり、福利厚生を削減したり、景気後退中であっても給与下げをしたりしてきた。さらに、歴史的低金利がかれこれ10年続いている。実際、信用力ある大企業は実質マイナス金利で借り入れることが可能になっている。これらの企業が借り入れるための金利を銀行預金者が払ってあげているわけだ。なので資金調達コストの高さが米国における投資を妨げているという理由は考えにくい。
家計部門が将来に悲観的になって預金しすぎているという意見もある。だから預金金利を引き下げて、強制的に消費に回すべきだ、という人達だ。だが、預金しすぎといっても米国の預金率は5%程度に過ぎない。しかも多くの世帯は借金漬けだ。とりあえず今は消費し、のちのち預金すればいいという意見もあるかもしれないがそれも中々難しい。実際、ドットコムバブルが弾けたあとに低金利政策が始まったが、これが消費ブームを引き起こして住宅バブルにつながったわけだ。
金融政策をゆるゆるにすれば、株や債券あるいは不動産などの資産価格が上昇して、いわゆる「富裕効果」が得られるという意見もある。手持ちの株価が上昇すればみんなリッチな気分になって、財布のヒモが緩むという論理だ。だが、この効果を持続させるには、資産価格上昇による利益確保が永久に続く必要がある。さもなければ、誰かがババを掴んでどこかで資産価格は下降を始める。資産価格が下がり始めれば、家計部門は再び金融市場から脱出することだろう。
確かなことは...「誰かが」この超低金利のツケを払っている、という事実である。それは我慢強く、物言わない「預金者」である。通常、低金利で恩恵を受ける企業や若い世帯が投資・消費を増やさないということは、国全体ではさらに消費を押し下げるということでもある。退職した世代は、金利収入に頼る部分が大きいからである。
ここのところの景気回復は消費拡大を期待した在庫積み増しの過程でもあったので、これで家計が財布のヒモを締めると、拡大減速どころか景気後退に逆戻りしかねない。
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